スペイン語勉強日記

まずは今年、DELE A2合格するんじゃ!

メキシコのセディージョ大統領の企みとプログレッサ計画

時間のかかることで完全に自分のことっていうのはついつい後回しになってモチベーションの維持が難しかったりする。はい、ぼくのスペイン語のことですね。

 

というわけで、中南米の歴史や重要なことをまとめてモチベーションをあげようという企画が始まりました。中南米は世界史でも勉強しないんでね、検索しても出てこないし。良い機会ではないかと。

それで、第1回はメキシコです。いきなり何百年も前のことをグリンゴがどうのとか言ってもしかたがないので、最近です。

1994年から2000年までメキシコの大統領だったエルネスト・セディージョと彼の行った条件付き現金給付政策(プログレッサ Progresa 計画)について語ってみようと思います。

Ernesto Zedillo - World Economic Forum Summit on the Global Agenda 2008

この人がエルネスト・セディージョ・ポンセ・デ・レオンErnesto Zedillo Ponce de León)です。

彼は95年に大統領に選ばれたわけですが、順当ではなかったのです。もとの候補者が暗殺されてしまったので、当時教育大臣でテクノクラートだった彼に白羽の矢がたったという経緯があるのです。暗殺だなんて、中南米っぽいですね。

大統領になった彼はメキシコの貧困を大きく削減したいと考えます。どうやら彼は権力と金に目が眩んで暗殺を指示した黒幕ではなかったようですね、一安心です。

それで、いろんな人と協力して考案したのがプログレッサ計画なのです。

先程も述べましたが、このプログレッサ、貧困者向けの条件付き現金給付プログラムなんですね。

現金が支給される条件は、子どもを学校に通わせること。妊娠中なら出産前診療を受けること。栄養状態のモニタリングを受けること。

このアイデアのポイントは、貧困家庭の子どもは貧困のままという世代間の貧困継承を破ること、です。

 ちゃんと責任ある親になるっていうならお金あげるよ、というわけです。さらに、このお金を受け取ることができるのは母親だけという画期的なものでした。

なぜ、母親だけかといいますと、母親の方が父親よりも子どものためにお金を使うという調査結果がでていて、それをセディージョ大統領が信用したからなんですね。さすがはテクノクラート。あがってきた根拠無き陳情よりもデータ。可能性よりも確率を取ったわけです。

で、目指しているのは子どもの健康と教育の改善なわけですが、継続的に実施しないとそもそも有効かどうかもわかりませんし、効果も見えないんですね。

なので、彼の任期中だけでなく、もっと長く続けないといけないわけです。

ところが、このメキシコというのは、次の大統領候補者は決まって「いまの政府のやってることは全部ダメだから改めなくてはいけない!」と有権者にアピールするのです。そして実際、毎回完全に方針が変わってしまうのです。現職大統領と同じ党の候補者でも、です。

そこで彼は、自身の政権5年の内、3年も実施に時間がかかる大規模なプログレッサ計画を実施するのをやめ、かなり規模を縮小して、規模は小さくとも統計的にはとてもサンプルの大きい規模で―これなら1年で実施できる―プログレッサの調査を行ったのです。良い結果が示されれば、それを後の政権は否定できないだろう。続けざるを得ないだろうと考えたわけです。

そして1997年、メキシコ506の村でのべ24000世帯以上で無作為抽出テストを始めました。プログレッサ計画に指定された村では、貧困世帯の母親たちは子どもたちに定期健診を受けさせ、85%の登校率を実現したら、3年にわたって現金補助と栄養補助剤が提供されます。

それで、結果はどうだったかというと、プログレッサ村落はすぐに教育と健康面で大幅な改善が見られました。プログレッサ村とそうでない村とを比べると、男の子は10%高い登校率、女の子は20%高い就学率を見せました。最初の2年の評価期間で全体として通学期間が半年長くなり、学校を辞める割合も低くなりました。

さらに、健康面でも深刻な病気の件数は12%下がり、プログレッサ村の子たちはそうでない子たちと比べ身長が1センチ近く(!)も高くなりました。新生児の体重も100グラムほど増え、低体重児の比率も低下しました。

これは劇的な改善です。そして、プログレッサの村では子を持つ母親の意識をも変え、プログレッサの申請率は97%にもなりました。

この実証プロジェクトで、プログレッサは有効だと示されました。成功したのです。さらに、後継政府はプログレッサを否定しにくい状況をつくることにも見事成功したのです。

実際、後継政府はその結果を無視できませんでした。ですが、これまでの歴史やメンツがあります。そこで、後継のビセンテ・フォックス大統領はプログレッサの中身をそのままに名前を変える(プログレッサ Progresa → オポルトゥニダデス Oportunidades )という方法で、続行されることになったのです。

プログレッサ (オポルトゥニダデス) はその後5年で当初の100倍の人々に適用されました。

このプログレッサ計画自体も素晴らしいのですが、このセディージョが示した無作為化による証拠の透明性と第三者評価が政府に計画の継続を納得させるための鍵となったのです。彼の企みは政治経済的な問題を大きく解決したのです。

さらには、この無作為化手法はメキシコの政策決定方式も変えました。議会は新しい法律を作って、あらゆる社会計画は評価されなくてはならないと定め、それが予算決定プロセスの一部になりました。現在では、栄養改善計画から雇用計画、マイクロファイナンス、教育プログラム…とすべて評価するようになったのです。公共政策に関する議論の基盤になったのです。

また、無作為化によって有効性が証明されたこの条件付き現金支給プログラムは、現在世界中の30ヶ国でが実施されるまでにいたりました。

 

どうでしょう?

セディージョは間違いなく歴史に名を残す名君だとは思いませんか?

ついで言っておくと、彼は現職大統領として対立党の大統領に平和的に権力を移譲したメキシコ史上初のケースだったりします。